トランプ大統領が23日、暗号資産の利用を推進する大統領令に署名したというニュースがあった。このニュースについてメモしておきたい。
暗号資産(仮想通貨)利用推進の大統領令に署名
20日の大統領就任演説では暗号資産について触れることはなく少しがっかりしたのだが、その3日後に大統領令が出た。これは十分に早いスピード感だ。国家経済会議という枠組みの中に作業部会を作って暗号資産に関する規制、指針等を議論させ、180日以内に報告書を大統領に提出するよう命じている。国家戦略として実行するための段取りを踏むには、こういうやり方になるのだろう。
トランプ大統領、仮想通貨推進の大統領令 国家備蓄も検討 - 日本経済新聞
説明のため日経新聞の記事の一部を引用する。
トランプ米大統領は23日、暗号資産(仮想通貨)の利用を推進する大統領令に署名した。財務長官や米証券取引委員会(SEC)委員長など関係閣僚で構成する作業部会をホワイトハウス内に設け、約6カ月以内に仮想通貨の規制の枠組み提案を命じた。仮想通貨を国家として備蓄することも検討する。
大統領令では、仮想通貨を含むデジタル資産が「米国のイノベーションや経済発展に重要な役割」を持つと規定し「経済の各分野で、デジタル資産やブロックチェーン技術の責任ある発展と利用を支援する」と記した。
具体的には、ホワイトハウスで経済政策を調整する国家経済会議(NEC)の下に、デジタル資産市場に関する作業部会を設置する。人工知能(AI)と仮想通貨の担当高官のデービッド・サックス氏を作業部会の議長とし、財務長官やSEC、米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長、司法長官らも部会のメンバーとなる。
関係政府機関はデジタル資産に関わる全ての規制、指針、命令などを洗い出し、撤回・修正の是非をまとめて作業部会に提出する。作業部会には180日以内に、規制枠組みを盛り込んだ報告書を大統領に提出するよう命じた。
今後のビットコインの動き
大統領令が出たところで、もう一度今後のビットコインの動きについて少し冷静に考えてみた。
以前の記事で、ストックフローモデルによるビットコインの価格予測グラフを作成した。この時はストックフローモデルに従い、半減期(約4年)ごとにストックフロー比率が2倍になれば、時価総額は10倍になると考えていた。下のグラフの赤の点線がビットコインの予測価格であった。2024年の4月に半減期を迎え、価格が約10倍(私のグラフでは2の3.66乗で約12.6倍)になるように思っていた。
つまり、仮に100万円のビットコインを購入すれば、4年後には1千万円、8年後には1億円になるのでないか、そうなったらいいな〜、でもそうなったら相続税対策も考えないといけないかな〜、などと勝手な妄想をしていた(笑)。
しかしストックフローモデルの冪則(ストックフロー比率が2倍になれば時価総額が2の3.3乗倍(約10倍)になる)が成立するには、無限にマネーが供給されることが条件となる。しかし実際にはビットコインに供給される投資マネーにはなんらかの制約条件がある。
2024年時点のビットコインの時価総額は私の計算によれば下記の表のセルF18の値で約1.4兆ドル(1.41e+12)となっている。ビットコインの価格が10倍になるためには、この時価総額も10倍の14兆ドル規模になる必要がある。14兆ドル規模のマネーがビットコインに供給されるのには何年くらい必要だろうか。
世界の金融資産総額がどれくらいなのか調べてみた。米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が毎年推計値を出していた。
2023年末の世界の家計金融資産は前年比7%増の275兆ドルに 日本は15兆ドル~BCG調査
説明のためBCG調査資料の「世界の家計資産推移」のグラフを引用する。
金融資産と非金融資産に別れている。金融資産は株式、債権、現金預金など、非金融資産は不動産、商品(ゴールド)などで、ビットコインなどの仮想通貨は非金融資産に分類されると思われる。
2023年時点でビットコインの時価総額が1兆ドルであったとすると世界の資産(金融資産+非金融資産-負債)の約0.2%となる。これが14兆ドルになると約3%である。この3%というポートフォリオの比率自体は実現可能な数値だと思う。しかしそこまでの変化が数年のスパンで起きるとは想像しにくい。
BCGの資料によると1年に約20兆ドルのマネーが金融市場に新たに供給されている。この供給されるマネーとボートフォリオの変化を考慮したとしても、ビットコインの時価総額が14兆ドルにまで膨らむには少なくとも5年から10年の期間が必要ではないだろうか。
ましてや2028年にやってくる次の半減期で、さらに10倍の140兆ドルの時価総額とは、BCGが予測する2028年の全金融資産の22%を占めることになり、非現実的な数字だ。
まとめ
ビットコインの時価総額と世界の金融資産に占める比率は上がっていくと思う。しかし冪則に従い、4年毎に10倍上がると考えるのは間違っていた。以前に書いた記事の「トランプ大統領はビットコインで米国政府債務残高を帳消しにできるか」も少し話を盛りすぎたかと反省している。
マネー供給の制約条件によってビットコインの高い年利は徐々に減少し、他の金融商品と同程度に収束していくのではないか。それがどのレベルでいつ頃なのかは分からないが。
参考データ
世界の金融資産について調べたデータを参考のためメモしておく。
- 金(ゴールド) 2023年時点 16.0兆ドル
・全世界で19万トン保有 1オンスあたり2,618ドル 1トンは32,150オンス - Nasdaq100構成銘柄 2023年7月時点 18.2兆ドル
・約2600兆円 143円/ドル Nasdaq市場全体の79% 東証1部の約3倍
・出典:NASDAQ100(ナスダック100)|大和アセットマネジメント株式会社 - 日本円 2024年3月時点 14.1兆ドル
・広義流動性マネーストック 2121兆円 150円/ドル
・出典:https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exms01.pdf