シンギュラリティ実験ノート

購入した1000ドルPCで何がどこまでできるのか実験した記録です。

GPU性能と将棋AIの強さの関係

GPU性能は将棋AIの強さに影響する。dlshogiのようなDeepLearning系の将棋AIソフトに本来の強さを発揮させるには、最低でも20~30万円クラスのゲーミングPCの能力が必要と言われている。我が1000ドルPCでもdlshogiは内蔵GPU+onnxruntime版で動いているのだが、このクラスのGPU性能で動かした場合に、将棋AIの強さにどの程度影響するのかを検証してみた。

 

Copilotに「未来的な将棋AIの絵」を頼むとチェスの駒の絵になってしまう😂

dlshogiとSuisho5のELOレーティング

先日の記事では将棋AIが10倍強くなるのに要する期間を検証した。その中でELOレーティングはdlshogiが4692、Suisho5が4598であった。レーティングでおよそ100の違いがあり、dlshogiの方が強いという結果になっている。

レーティング100の違いは勝率的にどれくらいの違いかというと、レーティングの式にΔR=100を代入して計算すると分かる。

  R = \dfrac {1}{1+10^{-ΔR/400}}

 = \dfrac {1}{1.562}

 = 0.64

勝率64%、相手側の勝率が36%になるので、dlshogiの方が勝率的には約1.8倍強いことになる。しかし我が1000ドルPCでは残念ながらそのようにはならない。

 

1000ドルPCで50回連続対局させた結果

下記の条件で連続対局させてみた。

  • dlshogi
    • モデル:2021年第2回電竜戦エキジビジョンバージョン
    • 定跡 :未使用
  • Suisho5 
    • モデル:2021年第2回電竜戦バージョン
    • 定跡 :使用(standard_book)

50回連続対局させた結果は以下のようになった。

  • dlshogi 13勝(27%)
    • 先手9勝(39%)、後手4勝(16%)
  • Suisho5 35勝(72%)
    • 先手21勝(84%)、後手14勝(60%)
  • 2引き分け (256手で勝負つかず)

Suisho5の勝率が72%、dlshogiの勝率が27%なので、Suisho5の方が約2.7倍強いという結果になった。

使用モデルのバージョンは前述のレーティング掲載サイトと同じなので、原因は明らかにGPU性能と思われる。

 

結果の考察

レーティング掲載サイトで使用しているGPUはGeForce1050Ti、またはGTX2080となっている。それぞれのGPU性能値(TFLOPS数)は、「CPUとGPUの性能向上の歴史」の記事で参照したサイトの情報によると、以下のようになる。

  • GeForce GTX1050Ti :2.1TFLOPS
  • GeForce GTX2080 :8.9TFLOPS

我が1000ドルPCの内蔵GPURadeon 780M)は8.1TFLOPS。TFLOPSで比較するとそれほど違いがないように見える。しかしNVIDIAGPUにはTensorRTという高性能な推論用ランタイムライブラリがある。私のようにOnnxRuntime版を利用した場合と、TensorRT版を利用した場合では、dlshogi作者のサイトの情報によると7.2倍の性能差があるらしい。

 

(以下は上記サイトからの抜粋)

OnnxRuntime版について

Windows 10 version 1903以降のPCであれば実行可能です。
ただし、探索速度は、TensorRT版にくらべて落ちます。

NVIDIA GeForce 2080Tiの場合、初期局面の探索速度に、以下の差があります。

バージョン NPS
OnnxRuntime版 5715
TensorRT版 41280

約7.2倍の差があります。

最高のパフォーマンスを出すには、TensorRT版をTensorCore搭載のNVIDIAGPU(NVIDIA GeForce 2080Tiなど)で動かすことを推奨します。

 

本来のdlshogiとSuisho5のレーティング差から求めた勝率の比率1.8倍と、我が1000ドルPCでのSuisho5とdlshogiの勝率の比率2.7倍をかけ合わせると4.86となり、約5倍の強さの差(性能差)が発生していいる。この5倍の強さの差は、TensorRTとOnnxRuntimeの7倍の性能差でほぼ説明できる(と思う)。

 

本日のまとめ

dlshogi公開モデルの本来の強さを体感したければ、やはりNVIDIAGPU+TensorRTの環境が前提となる。クラス的にはGeForce RTX2080Tiクラス(11.8TFLOPS)以上か。今ならNVIDIAGPUを搭載するミニPCにこんな機種がある。

 

以前に似たような機種でNUCX17というミニPCがあったのだが、ドクロマークの絵が不評であった。幸い今回はそのようなマークは付いていないのでオススメだ。

 

もうひとつのオススメは、クラウド環境のGPUを使う方法である。契約するまでが大変そうだが、Google colab Proなら割と簡単にできそうだ。Google colab は一時期sshが禁止されていたが、最近は課金すればsshは使えるようだ(情報として参考にしたサイトはこちら)。sshが使えれば、PC上のモデルと、Google colab上で高速なGPUを使うモデルとを対局させることができる。(詳しい説明はこちらにある)

 

1,179円で100コンピューティングユニットを購入でき、有効期限90日間で使用できる。私のようにdlshogiをちょっと動かして試してみたい、あるいはPCでは動かない大型のLLMをちょっと動かしてみたいという場合にはこれがベストな選択肢かと思う。

 

しかし個人的には海外サイトにクレジットカード番号を入力するのに若干の抵抗がある。Googleのサイトだから信用するしかないか、とも思うのだが。。