7月31日に総務省のページに「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」が公表されている。私の怠慢によりタイミングを外してしまったが定点観測データとしてメモしておきたい。
ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)
今年度の主要なデータは以下の通り。
- 受入額(令和6年度実績):
- 約1兆2,728億円(対前年度比:約1.1倍)
- 約5,879万件(同:約1.0倍)
- 住民税控除額(令和7年度実績):
- 約8,710億円(対前年度比:約1.1倍)
- 控除適用者数は約1,080万人(同:約1.1倍)
総務省の作成したグラフを説明のため引用する。まずは受入額の推移を示すグラフである。受入件数は昨年から横ばいとなっているが受入額は順調に増えている。受入件数がなぜ横ばいとなったかは不明。

続いて住民税控除額の推移を示すグラフである。

減速傾向はあるが控除適用者数も昨年より約80万人増えた。約1,080万人もの人がこの制度を利用している。
ふるさと納税に関するマスコミの報道
私はふるさと納税は素晴らしい制度であると肯定的に捉えている。そのことは昨年の以下の記事で書いた。
ふるさと納税に関するマスコミ報道を検証してみた - シンギュラリティ実験ノート
ふるさと納税の令和6年度現況調査結果を眺めてみた - シンギュラリティ実験ノート
ふるさと納税を批判的に報道するマスコミの記事を見ると私は反論したくなる。ただし最近はそのような批判的な報道は目立たなくなった気がする。熱心に報道をチェックしているわけではないので念の為、AIエージェントに調べてもらうことにした。
ふるさと納税に関するマスコミの最近の報道を調べ、批判的報道と肯定的報道のどちらが多いのか調べてください。批判的な場合にはその理由やポイントを整理してください。
ChatGPTに聞いたところ以下のような回答があった。
いいですね。最新の報道をざっと調べたところ(直近の政府・与党の検討から利用実態調査まで)、マスコミ報道は「批判的な論調」がやや多めに見えます。以下に根拠と、批判的報道で挙げられている主要な理由・ポイントを整理します。重要な根拠には出典を付けます(下の5件は今回の結論で最も負荷の高い根拠です)。
結論(要約)
- 最近の主要報道は「ふるさと納税に対して問題点を指摘し、制度の上限設定など規制強化を報じる」ものが目立ちます。政府・与党が控除額に上限を設ける方向で調整しているという報道が中心になっており、これに関連する批判的議論が多く出ています。
- 一方で「地方にとって重要な自主財源」「利用者にとってのメリット」を強調する声や、上限設定に反対する経済団体などの反論(肯定的/擁護的な論調)も一定数あります。
「批判的」報道が多い理由・ポイント(メディアで繰り返されている主張)
- 高所得者に有利/富裕層優遇の懸念
高所得者ほど大きな控除を利用でき、高額の返礼品を受け取れる仕組みになっているとして「富裕層優遇」の批判が大きい。これを受けて政府が控除額上限を検討している。- 地方税の流出・都市部の税収減
都市部自治体の税収が目減りしている点(例えば世田谷区などでの大きな減収の報道)が問題視され、税収配分の不公平さを指摘する報道が多い。- 返礼品・ポイント競争が制度本来の目的を歪めている
ポータルサイトや仲介業者によるポイント付与や高額返礼品で「寄付の競争化」が進み、本来の趣旨(地方応援・地域活性化)が薄れているとの批判。総務省の規制(ポイント付与禁止など)やその背景を報じる記事が多い。- 仲介サイトへの手数料や業界構造への懸念
ポータル運営や広告費、仲介手数料が膨らみ、自治体に支払われる金のうちかなりが仲介費用に回っているとする報道・分析が出ている(経費率への疑義)。これが「制度の透明性」や効率性への不満につながっている。- 自治体職員の疲弊や過度な競争
返礼品の調達・プロモーション競争で自治体側に負担が増していることを指摘する報道がある(職員の負担、地場産業との関係性の議論)。
肯定的・擁護的な報道・意見(代表的な反論)
- 地方への資金還流・地域振興の有効性:寄付金が地方の自主財源として重要であり、制限を強めると地域振興にマイナスの影響が出ると懸念する声。特に経済団体や一部の自治体関係者は反対を表明しています。
- 利用者の定着・生活の一部化:調査データでは利用者が多く、返礼品目的でも実際に寄付行動が地域への関心につながっているとする報道もあります(利用実態のポジティブな数字)。
(以下略)
※ChatGPTの上記回答の詳細はこちらのページで公開(共有)した。出典へのリンクも含まれている。
肯定的意見は一定数あるものの、やはり否定的意見の報道が多いようだ。批判的メディアの主張に対する私の意見は以下の通り。
「高所得者に有利/富裕層優遇の懸念」
この批判をする人は「ふるさと納税」の制度を理解しているのかと疑問に思う。高所得者や富裕層の人が仮に1000万円を「ふるさと納税」した場合に節税対策になるかといえばならない。1000万円から2000円を引いた分の999.8万円が税額控除されるわけだが、1000万円を特定の自治体に寄付しているので納めた税金は変わらない。つまり節税対策にはならない。
高額の返礼品を受け取れるという主張は確かにそうだが、仮に300万円、400万円分のズワイ蟹とかホタテを貰えたとして嬉しいだろうか。高額の寄付をできる人がそんな返礼品目的で寄付をしているとは思えない。
政府が控除額上限を検討しているのは「富裕層優遇の懸念」が理由ではなく、そんな高額の返礼品に意味がないと気づいているからじゃないのかな。
地方税の流出・都市部の税収減
都市部や政令指定都市では流出した税収を補填する仕組みがふるさと納税の制度に組み込まれている。ふるさと納税で流出した額の75%は地方交付税で穴埋めされる。このため実質的な影響は一般会計予算の2%程度に抑えられるはずだ。
東京23区は地方交付税の対象団体ではないため世田谷区などでは「100億円も税収が流出して大変だ~」とか言う報道が見られる。これも東京23区は東京都から特別交付金が潤沢に貰えるから心配ない。これにより世田谷区の一般会計予算への影響額は数%に収まっており、このことは以前の記事で書いた。
ちなみに令和7年度の特別区交付金の内訳が東京都のこちらのページにある。
世田谷区は658億円の交付金を受け取っている。港区と渋谷区に至っては「財源不足額が生じていないため不交付」という扱いになっている。

流出額の多い団体(すなわち住民税控除額の多い団体)の資料は総務省の現況調査結果に記載されており、1位は横浜市の343億円、5位は東京都世田谷区の123億円、11位は東京都港区の91億円となっている。上記の通りなので港区、渋谷区住人はもちろん23区内の住人も気兼ね無くふるさと納税を活用していいと思う。
東京都も特別区財政調整交付金を23区に配布した残りの44.9%(令和7年度から44.0%)が基金に繰入れられ貯まっている。この情報は都財政の見える化ボードで公開されている。昨年のブログ記事にも貼り付けた。

2兆円を超える基金がある。昨年のグラフを見ると2024年に大きく減っているように見える。しかし今年のグラフを見ると2024年の基金残高は復活して2兆5千億円を超える額となっている。

このカラクリはよく分からない。おそらく予算的には「3つのシティ実現」等の施策で取り崩す予定だったが、使い切れなくて翌年度予算に繰越された結果ではないか。2025年のグラフも7352億円を取り崩す予定になっているがその結果はまた来年に検証してみたい。
返礼品・ポイント競争が制度本来の目的を歪めている
返礼品や手数料などに税金が無駄に使われているという主張がある。しかし本当に無駄だろうか。内需拡大という点で見れば返礼品も有効な手段と見ることができる。手数料が無駄だと言うが、税金を徴収するにも公務員の人件費はかかっているわけで決して無料ではない。しかもふるさと納税では納税者が自主的に税金(寄付)を納めている点も評価するべきだ。納めたお金が返礼品に変わること自体を批判する人もいるが、納めたお金はあくまで寄付である。寄付したお金がどのように使われるか、どう使うべきかは寄付した当事者と受け取った自治体の意思が尊重されるべきで、寄付していない人がとやかく言うべきものではないと私は思う。
ふるさと納税を総務省官僚は嫌っている
ふるさと納税は国民が自主的に寄付することで1兆円を超える規模の税金が動く画期的な制度だ。税金とは本来は中央集権的な仕組みだが、ふるさと納税は個人の意思に基づき自律的に運営される非中央集権的な仕組みでありその点でビットコインとも似ている。もちろん総務省の管轄で規制は受けるし、地方交付税や住民税の仕組みとも一体となっているので完全に非中央集権的ではないのだが、官僚達は自分達がコントロールできない非中央集権的な税金がこれ以上増えることを恐れ嫌っているはずだ。総務省がポイント付与を禁止して楽天に対して嫌がらせとしか思えない規制をしたのはそのためだろうと私はにらんでいる。オールドメディアのマスコミがふるさと納税に批判的な報道しかしないのはそんな総務省官僚のご機嫌を取りたいのだ。
おわりに
非中央集権的な特徴を持つふるさと納税がこれからどう発展していくのか今後もウオッチしていきたい。
昨年の記事の中で私が疑問に思っていたことがいくつかある。その中の一つをChatGPTに聞いた結果を最後に紹介したい。
総務省の集計によると、令和6年度のふるさと納税受け入れ額実績は約1兆2728億円、これに対して令和7年度の住民税控除額が約8710億円で、その差は4018億円となっています。ふるさと納税は寄付した分から2000円を引いた分が税額控除される制度です。令和7年度の受け入れ件数は5879万件だったので受け入れ額1兆2728億円から2000円×5879万件の1176億円を引いた分が翌年の住民税控除額になると思うのですが、それよりも低い8710億円となっています。これははなぜですか。
ChatGPTの回答はこちらで共有(公開)したので見てほしい。
結論だけ言うと「受入額 − 2,000円×件数 = 翌年度の住民税控除額」ではないということ。所得税控除分も考慮する必要があるという指摘であった。なるほど納得である。私の理解の誤りを分かりやすく指摘してくれたAIに感心した。さらにChatGPTは以下のように提案してきた。
もし次に進むなら、
「この差額4018億円は誰の得になっているのか?」
「制度として公平か?」
「自治体・国・納税者のどこに歪みがあるか?」
といった政策評価の議論もできますが、いかがでしょうか。
オールドメディアの報道に流されないようにするにはSNSやインターネットの情報を集めて自分で考えることが大切とは認識していた。いつの間にかAIは政策や制度の疑問点を調べたり教えてくれるだけでなく、政策評価の議論の相手もしてくれるようになったらしい。議論の相手としては手強そうな気もするがまた試してみたい。