シンギュラリティ実験ノート

購入した1000ドルPCで何がどこまでできるのか実験した記録です。

日本の国際収支をキャッシュフローとして眺めてみた

5月10日に日本の国際収支(2023年度速報)が発表された。このデータを日本のキャッシュフローとして見た時に、どう理解すればいいのかを考えてみた。私は国際収支を解説できるほど経済知識もなく、キャッシュフローを説明できる会計知識も持っていないが、個人的に興味を持ってこのデータを眺めている。

国際収支のデータは財務省HPの統計表一覧(国際収支状況)の報道発表資料の中にある。下記グラフは「令和5年度中 国際収支状況(速報)の概要」というページに掲載されている。

 

財務省のHPにあった画像を説明のためそのまま転載

国際収支に注目した理由

私が国際収支に注目した理由は、元々は日本政府のバランスシート(以下BS)に興味を持って調べていた時に、日本政府のキャッシュフロー(以下CF)はどうなっているのかと思ったのがきっかけだ。会計の世界では「利益は意見、キャッシュは現実」という言葉があるらしい。私が尊敬する上司も昔こんなことをおっしゃっていた。

私は取引先の与信審査をする時にバランスシートは見ない。キャッシュフローだけを見る。

CFは中小企業では資金繰り表と呼ばれ、企業の持続可能性を判断するうえで大事なデータと言われている。日本政府にCFに相当する資料があるか探してみたところ、地方自治体では「行政キャッシュフロー計算書」というものがあるようだが、日本政府のCFは見つからなかった。

ないのであれば仕方がない。国際収支は国全体のCFに相当するはずなので、それを俯瞰的に眺めてみたいと思った。

国際収支をCFとしてどう見るべきか

国際収支では、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支がある。企業のCFでは、営業CF、投資CF、財務CFの3つがある。おそらく貿易・サービス収支が営業CFに相当し、第一次所得収支が財務CFに、第二次所得収支が投資CFに相当すると思っておけばいいのではないか。そうすると全てを足し合わせた経常収支がCFの当期増減額に相当することになる。

 

 

現在、日本は、貿易・サービス収支がマイナスになることはあるが、第一次所得収支がそれを補っており、経常収支はずっとプラスで推移している。経常収支がプラスを維持している間は、日本経済は持続可能と見て良いだろう。

貿易・サービス収支がマイナスであることは、企業で言えば本業で儲けていないことになり少し危うい気もするが、第一次所得収支が順調に増えていることは、日本が海外に資産を多く持ち、そこから利子や配当を得られる裕福な国であることを示している。

CFとBSの関係

CFとBSの関係を簡単に言うと、当期のCFの当期増減額が前期のBSの「現金及び預金」の科目に加算され、当期BSの「現金・預金」の期末残高になる。つまり下図のようになる。

 

これを国全体で見た場合は、日本のBSの個人金融資産や法人金融資産の現金・預金の科目が毎年増えていくことになる。これをデータで検証してみたい。

日本のBSで現金・預金の増加額を検証してみる

日本全体のBSを私は見たことがないが、それに近い情報を日本銀行が公開している。日本銀行HPの資金循環統計という資料である。この中に2023年第4四半期の資料があり、個人金融資産、法人金融資産、一般政府金融資産が載っている。

資金循環統計(日銀資料から抜粋)

これらの2023年度の増加分として、取得できる最新データの2023年12月末と2022年12月末との差額を計算してみた。国際収支は年度で、金融資産は暦年になってしまうが年間でみれば誤差は無視できるレベルだと思う。

家計の金融資産(個人金融資産)

家計の金融資産の2023年12月末の残高は2,141兆円で、2022年12月末の残高2,037兆円から104兆円増加している。現金・預金の2023年12月末の残高は1,127兆円で前年比1%増となっているので、現金・預金の増加額を計算すると11.2兆円(1127✕0.01÷1.01)となる。

家計の金融資産(日銀の資料より転載)

法人企業の金融資産

民間非金融法人企業金融資産の2023年12月末の残高は1,474兆円で、2022年12月末の残高1,351兆円からは123兆円の増加である。現金・預金の2023年12月末の残高は336兆円で前年比3.1%増となっているので、現金・預金の増加額を計算すると10.1兆円(336✕0.031÷1.031)となる。

民間非金融法人企業の金融資産(日銀の資料より転載)

一般政府金融資産

一般政府とは中央政府地方公共団体社会保障基金を合わせたものらしい。一般政府金融資産の2023年12月末の残高は821兆円で、2022年12月末の残高746兆円からは75兆円の増加である。一般政府については資産グラフは掲載されておらず、現金・預金という科目もない。おそらく財政融資資金預託金がキャッシュに該当するのかと思うが、24兆円と規模が小さいので今回は無視することにした。

考察

国際収支の2023年度経常収支は財務省の資料によると、25.3兆円で過去最大の規模だそうだ。

2023年度経常収支(財務省の資料より転載)

家計の現金・預金の増加額11.2兆円と、法人企業の現金・預金の増加額10.1兆円を足すと21.3兆円となり、経常収支の25.3兆円にかなり近い数字となった。企業会計と国全体の会計では根本的な違いがあり、おそらく数字は一致しないのではないかと半分思いながら調べていたが、この結果には私自身が驚いている。

仮にこの検証結果が正しかったとして、ここから何が分かるのだろうか。おそらくここから言えることは、個人金融資産が年間で104兆円も増加し、法人金融資産が同じく123兆円も増加したと言ってウハウハ気分で浮かれるなということだろうか。なぜならそれらの増加分は株式などの資産の評価額が上がっただけで、手元のキャッシュは年間で25兆円しか増えていないからだ。(※もちろん25兆円は大きい金額と思うが、資産評価額の増加に比べればという意味である)

まとめ

2023年度の国際収支の経常収支と日本のバランスシートを俯瞰的に眺めてみた。法則型性格の私としては日本経済のお金の流れが少しだけ理解できた気がして満足である。私の理解不足で間違いがあるかもしれないので、これからも定期的にデータをチェックしていきたい。